"存在期限"

それは、人が世界に存在していられる期限のこと
食べ物で言えば、賞味期限と同じ
人にも、存在期限がある
それは人それぞれ違う
長い人もいれば、短い人もいる
普通、存在期限はわからない
でも、それがわかってしまったとしたら…
どう思うんだろうか?




太陽の下、木の下で、私はただ座ってた
スケッチブックには、目の前に広がる草原の絵
風が吹く
長く伸ばしている髪が揺れる
でも、こんな平和でも、妙な胸騒ぎは止まらない
今までだって、嫌なことの前には胸騒ぎがした
また嫌なことがあるのだろうか
今までのことは些細なことばかりだったから、また小さなことだろうと、思った
夜になるまでは。



自分の部屋の中で、置いてあった本を取り、そっとめくる
父からもらった、古い本
表紙は汚れていて、ページのところどころも茶色くなっていた
でも、そんな本に興味をそそられ、毎日、夜になると1時間ほど読む
ちょうど、1時間ほど経ったときに、私は本を閉じた
元あった場所に本を戻し、寝ようとすると
さっき、感じていた嫌な予感が的中した
突然、目の前が歪んだ
ひどい目眩と吐き気に襲われ、立てなくなった
声すらも出ない
倒れこみ、頭を抱えた
このままじゃいけない
そう思い、扉のところまで這って行こうとした
動くと、目眩と吐き気が同時に襲ってくる
それを耐えなければ、扉のところまでは行けない
なんとか耐えて、扉の前まで来れた
出せる限りの力を出して、叩いた
気付いて、誰でもいいから、気付いて
その思いの一心で叩き続けた
すると、扉が、開いた
ゆっくりと開いて、その隙間から、青い瞳をした一匹の黒い猫が顔を覗かせた
うちでは、この猫を飼っている
その猫がこの子、リン
リンはこちらを、数秒見つめ、近くにあった人形を口に咥え、階段から落とした
母が階段からあがってくる音がする
リンは、ただ私を見ていた
母は倒れている私を見ると、顔色を変え、父を呼んだ
父もすぐにこちらに来て、大丈夫か、と叫ぶ
声を聞くと、すごく安心した
あまりの目眩と吐き気に耐えられなくなり、気を失った


重い目を開けると、そこには白い天井が見えた
まだ完全に開けていない目を少し動かし、周りを見る
母と父が、大丈夫かと、声をかける
ただ目が重いだけだったから、小さく頷いた
2人は安心したような顔を見せ、父はどこかへ行ってしまった
母は、私の手を握りしめている、感覚はあまりなかったけれど、母のぬくもりが感じられた
扉が開き、白衣を着た人が入ってきた
目を動かしてでしか見れない
先生は目が覚めた私を見ると、父、母、私、と順番に見て、話始めた

「残念ですが、お子さんの病気は、治りません」

そこだけは、はっきりと聞こえた
病気?なんの病気だろう
話したのだろうけど、入ってこなかった
父は唖然とし、母は涙を流した
喋ろうにも、うまく声が出ない
病気ってなに、そう言いたいのに
母は泣きながら、私の頭を撫で続けた
口を動かして喋りたい、でも声が出ない
父は手を握りしめていた
先生は、近付いて、ゆっくりと喋った

「お薬を、出しますからね。もう少ししたら、帰れますから」

父も母も、無理に笑っているようだった
聞きたかった。でも、声が出ないから、頷くしかなかった
私の病気って、なに?




あのあと、家に帰って、特に変わらない生活だった
いつも通りの時間に起きて、家族におはようと言って、ご飯を食べて
そんな普通の生活
だけど
度々吐いた
ご飯を全然食べれない日もあれば、いつも通り食べられる日もある
母と父は、何も話してくれない
最初はあまり気にしていなかったけれど、しばらくして、やはり気になった
だから今日は話をしよう、そう決めていた
食事をするときに、私と父と母、そしてリンが集まり、私が話そうとしたときだった

声が出ない
出そうとしても詰まった感じになり、出せなくなった
喉がものすごく痛くて、咳き込んだ
母も父も、焦った表情でこちらを見つめていた
咳は止まらずに、血まで出てきた
頭がくらくらする
椅子から転げ落ち、意識が朦朧とする
ただ、意識がなくなる前
リンが、私の頬を舐めた
それになぜか安心感を覚え、意識がなくなった




またこの天井だ
真っ白で、何もない天井
前と同じように目だけ動かし、周りを見た
誰もいない
以前は、母と父がいたのに
先生と話しているのだろうが、誰もいない部屋で一人でいることに、ものすごく、寂しさを覚えた
誰かに会いたくて、誰でもいいから来てほしかった
胸が苦しくて、痛かった
これが何かの症状なのかはわからないけど、とにかく苦しかった
その苦しさの寂しさに耐えていると、扉が開いた
入ってきたのは、小さな男の子

「あっ、まちがえちゃった」

男の子は病室を間違えたらしく、あっと声を出した
私が見ているのに気付くと、ばいばい、と幼い笑顔で手を振ってくれた
その些細な行動で、私の心は寂しさでいっぱいだったのに、すごくあたたかくなった



今、病室には、私と母と父と、先生がいる
父と母は、相変わらず暗い表情だった
先生が、私の方を見て、ゆっくりと口を動かす

「あなたは、病気です」

先生、知っているよ

「…残念ですが、この病気が、完治した一例は

一つもありません」


治らない
前にも聞いたことのある言葉
改めて、私に向かって突き付けられた言葉
わかっていた、知っていた
それでも、どこかで知らないフリをして、過ごしてた
でも、こんなに堂々と、突きつけられたら
知らないフリなんて出来る訳もなくて
知らぬうちに、私の頬は涙で濡れていた
ただ、泣いているという意識はなくて、あるのは、笑っているという意識
泣きながら、笑っている
どうして笑っているのか、というよりも
どうして泣いているのか、そっちの方が強かった
きっと、完全に理解できていないんだ
だから、考えた

私は病気
この病気は治らない
まだ先生は言っていないけれど、わかる
きっと、長くは生きられない
もう、好きなことができる時間も、あまりない
自然に死ぬことができない

整理して、精一杯頑張って整理して、やっと理解できた
そしたら、胸がズキズキと痛みだして
声をあげて、泣いた
きっと、声になっていなくて、かすれていたと思うけど
息ができなくなりそうになるくらい、泣いた

私の命は
いつまで続くのかな



あの後、私が泣きやんだ後に先生は、入院はまだしなくていい、家に居ていいよ、と言ってくれた
でも、その代わりに、何かあったら必ず病院へ来るようにと、強く言われた
それぐらい、悪いのだろう
暑い夏のはずなのに、どこか寒かった
家に帰っても、何もする気が起きない
ただベッドに転がり、ぼーっとしてるだけ
ご飯も食べずにいた
これからどうしようか
何かしたいことはたくさんあったけど、できる保障なんてない
なくなった
そう思うと、何かをする気なんて、起きなかった
ふと、寝転がっていると、いつも見ている本が目に入った
まだ全部読んでいない、父からもらった本
無意識のうちに、本を取り、ページをめくっていた
この本の内容は、一人の少年が、魔術師に呪いをかけられ、短い人生を色々な旅をして行く
そんなファンタジーだった
父がみんな本を見ていたのかと思うと不思議だったが、これも新しい一面なのだと思った
少年は、自分が生きていられる時間を
"存在期限"
そう名付けていた
この少年と、私の気持ちと、よく似ていた
そんな少年と同じ目線で見てみたくて、たとえ見れなくても、少しはそんな気持ちになれるのではないか
そう思って、私も、自分が生きて居れる時間を、"存在期限"と名付けてみた
これから私が生きていく物語は

私の"存在期限"だ。









ここから先の物語は
まだ白紙の物語
だから、あなたが色をつけてあげてほしい。


この、透明な世界に

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